数寄モノ語り その168 ゴルフ場の柿が渋いぜ

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晩秋の富士山麓に生える柿の陰影


なんだかんだで11月も終わりだナ

今年は古美術商巡りが随分減った

週一は必ずといってよいほど足繁く通ったものだった

銀座から始まって京橋をはしご、そして日本橋

勿論、駄ものもあれば極上品もあってサ

まさに玉石混合の世界

見慣れた店暖簾を潜れば店主が出てきて会話もほどほど

奥から大事そうに道具を抱えてくるのサ

まさに阿吽(あうん)の呼吸ってやつだ

そして古めかしい包み布が解かれると

古色蒼然たる桐箱が目の前に迫り

「ゴトリ」っと小気味のいい箱蓋の開ける余韻をのこしつつ

恭しく出された時代切れでつくられたであろう仕覆があらわれる

それだけでおおよその中身がわかるってなもんだ

紐解いた仕覆から出された古色蒼然とした道具

断りを入れてそオーっと手元に引き寄せて

全体、横、底などとひっくり返しては戻しつつ

愛でつ眺めつするときはまさに時空遊泳の世界

そして沈黙のときが流れていく

やがてオーとかフウーとか分けわからん言葉ばかりが店に響くのだった

やおら店主の顔を見上げるなり「よし、買ったア~!」とかネ

しかし昨今はヨダレが出るようなモノは少なくなった

というよりはモノに対する執着心ってやつが

少しづつ薄れてきたのかもしれない

数寄な茶道具どころの井戸茶碗だの、ととや、はたまた古唐津に志野向付と・・・

国宝級なものは持ってはいないものの

それでも茶の湯数寄な連中を茶室に呼べば

一応はため息をついて貰って

至福のひとときを過ごしていただく茶道具は

蔵してると自負しているつもりではある

さて、話は変わって・・・・・

冒頭の写真は御殿場の、とあるゴルフ場でのワンショット

7番パー4でトリ叩いて少しは反省しつつ、すぐ横にある8番パー3へ

登山やってることもあって四輪カートオは大ッ嫌いでね

大空のもと、山々と樹林に囲まれたなかを

芝を踏みしめ乍ら黙々と歩くことをモットーとしている身としては

それこそゴルフ場にきた意味がなくなってしまう

そしてネコも羨ましがる道のない道を直感で歩くのを常としているのだ

雑木林と植林の間を草を掻き分け縦横無尽に歩くのは

とても愉しく、夢中になってしまう

こうなってくるともうゴルフどころではなくなってくるから怖い

で、この日、雑木林のなかをいい調子で落ち葉の踏む音に耳を傾けながら

8番ホール向かうところで目の前に現れたのがこの柿の木だった

高くもなく低くもないまったくもって中庸を得ているではないか

その姿は他の柿木と違って直線的で鋭角

その枝先も鋭く刃物を想起させる

水墨画、特に禅機図として盛んに書かれていたことの所以ではある

さて、ティグランドに着いて皆に柿の話をしたら喰いたいという

後ろを確認するとグルフ連が来る気配はない

「オシ、わかった!」っ云うか云わないうちに

バックから軟鉄マッスルバック8番アイアンを徐に抜いて

再び雑木林に入っていったものだ

そして柿の木を前に一呼吸

居合を嗜む身としては一発勝負は必須

狙いを定めた柿の実に一目

間合いを取り、やや上段に構え、一気呵成に振り下ろす

瞬間、ヒュン、バシ!っと小気味のいい音がゴルフ場に響いていく

刹那、宙を舞った真っ赤な柿の実がひつと、茜色、黄色に染まった落ち葉のもとにスッと落ちてきたのだった

アイアンを放り投げ、柿の実をマジマジト見遣れば

少し赤みが薄いかな、とおもいつつ

それを拾い上げ、割って食べてみた

匂いも良く独特の甘さもほどほどにある・・・が

おもわず天を仰いで「渋いぜ」っと呟いたのだった

やっぱナア~、ゴルフもだめだしサ・・・・・

いやな寂寥感に浸りながら

傍らにあるアイアンと柿の実を抱えて雑木林をあとにする

辺りでは午後の陽光が一段と斜めに傾きゴルフ場は足早に冬に向かっていくのだ