数寄モノ語り その178 粋な御夫婦と小料理屋の器

北大路魯山人作 黄瀬戸向付 


今、鎌倉御成山の山中では沙羅、岩たばこがひっそりと咲いている

一か月ほど山頂には上っていないが去年暮れに倒れ掛かった杉の木が気になる

明日辺り植木屋さんといってみようか

さてと、久し振りに吉祥寺で呑んだ

気持ちのいい酒だったな

お相手は仕事の関係でお目にかかって3回目

快活でひとのこころに安らぎを与えるような笑いと

物事の理解が早い奥さん

かたや真面目で素直で、そして責任力のある旦那さん

とても微笑ましいかぎりだった 

御i二人の馴れ染めを語るに

独身時代の彼が時々通っていた料理屋があったという

そこの片隅で一人で呑んでいたのが彼女だった

彼女が笑うと店中に響いてなぜかとても愉しかった

その、とても艶のあるお福笑いにぞっこん惚れたのだと・・・

ナアルね、然も在りなん

ところで、この日伺った小料理屋「こばやし」

料理は刺身から煮物、焼き物までとテリトリーが広く美味しかった

が、それよりもカウンターから垣間見る板場の道具に興味をもった

なんと古美術品を実戦配備しているのだ

二人の板前のまな板右に李朝後期染付壺二つ

具材が盛られた江戸後期伊万里網手大皿に色絵皿

調味料の入った染付蕎麦ちょこ、将又薩摩焼等々

そして壁には魯山人の皿、棟方志功の肉筆が・・・・・

聞いてみると、この店の贔屓客の古美術嗜好家からの提供品とか

しかし、それらをさり気なく使ってる御主人には驚いたものだった

で、横で旨そうに食べながら、相変わらずの奥さんの心温まる

御福笑い声は店中に降り注がれ、お客さんはみんないい気分サ

お酒も一段と美味しかったに違いない

とてもありがたいひとときであった