行政書士 石山政義こと碧雲山人の時空遊泳
俗塵を払って(15)
数寄ものがたりにキラリ(7)
秋も刻々と深まって、拙僧としましては心身ともきびきびして、なにをやってもすばやく行動ができる時期だ。

早朝の鎌倉を散策 拙僧宅山頂にかかる中天よりやや右へ位置する秋の月 透明感が漂い、この季節独特の青白い光彩を放つ
仕事のブログに時間を割いた為、茶事に関する数寄ものがたりが少しく等閑になってしまいまして申し訳ありませんでした、で、早速、遠寺晩鐘堂三畳台目に舞台を戻しましょう。
炭点前が終わり、座掃き後、改めて点前座に座り、正客である酒盛鋭吼氏と、とろりとした柿安南香合の由来等の問答がボクシングでいえば軽いジャブで交し合い、襖を閉める前に懐石の始まりを告げる。
さあ、これからが大変だ、水屋、台所では客五人の折敷、朱杯、向付けを準備。順に折敷は粋な江戸好み喜三郎。明治、大正期に活躍した数寄者益田鈍翁をはじめ数々の数寄者、茶道具商も贔屓にしていたという漆器作り、特に懐石道具作りの名人だ。酒杯は千家十職の中村宗哲七代目、轆轤引きが薄く、やはり名人としてうるさい代物。そして赤下地に豪華に本金を唐草風に焼付た中国明時代金襴手向付、そのなかには平泉三石氏入魂の透明でいて薄いピンク色を呈している平目の昆布〆を薄くもなく厚めでもない絶妙な切り方で五切れ、それに山葵を添えた。こりゃ、すごい、金襴手もさることながら中身も凄い、っと感嘆してる暇はないのだ。
本日の懐石は通常の順番とは違い、当日の時間の都合により飯碗と汁碗は省略。このようなアレンジも自由発想でいいし、臨機応変、いつどこでも対応できなくては。これも数寄者としてのたしなみかな。
さて、襖を開けて深々と御辞儀、そして、その御膳を正客から亭主が順々に配膳したところで正客、「ほオ〜、金襴手。金も摩れはなく鮮やかだ・・・赤と金は一見派手に見えるが、こうして改めて観ると華やかでいて気品があるなあ、こりゃ、気持ちがよい」。拙僧は聞こえぬふりして内心「ヒッヒッヒ!」っと。
そして、寂寥とした秋草の型の、いわゆる抜けも鮮やかな鉄かんなべで慇懃に酒杯に酒を注いでいき水屋に引き下がる前に「どうぞ、 箸を・・・」を合図に食事が始まるという具合だ。7分ほど経たところで、今度は煮物。喜三郎の溜め塗り、木地が薄く濃くみえ、なかは真塗りという作り。海老しんじょに青菜、柚子を細切り散らし蓋をして正客以外は通い盆に千鳥風にのせて席中に。
そしてまた一献、っというところで、正客、酒盛鋭吼氏が早くも拙僧を捕まえて曰く「御亭主、一杯呑みませんか、水屋は水屋方に任せればいいじゃなすかア」、おっと、赤ちょうちん屋でもこんなに早くこないぞ、流石、名に相応しい御仁。が、負けまい、態よくサラリと逃げて、頃見計らって焼き物だ。魯山人旧蔵古備前の俎板皿をお湯で少しあたためてその上に笹をひいて香りも豊かな甘鯛の切り身を五枚センスよくのせて面前に。正客曰く、「ほーッ、桃山時代備前の窯道具として使用したもんですな、適度の曲線が抑揚があっていいですな。二種類のものをのせるにはもってこいってもんだ」、続いて有閑氏「あら、いいわねエ〜、色具合とカチカチに焼けた土の固さが素朴だわ〜、うらやましいなー」んだなア〜、更に正客曰く「北大路魯山人旧蔵ってのもわかるねエ、彼の織部等の俎板皿は正にこれだ」どちらかというと寡黙でニコニコしている有難屋無頼庵氏もこういったものだ「魯山人、あたしは好きだ、何億円も使い古美術を董集し夥しい陶片ともども北鎌倉自宅で展示していたくらい勉強家だったし陶磁器に限らず漆器、書と、いずれをとっても当意即妙だネ」成る程、言いえて妙だ。そして一献して鉄かんなべは正客預けということに。
水屋に戻り8分程して、今度は強肴を一品出さねばと、乾山独特のさび絵を活かして左隅から柳を二本、三本とすーっと画き絶妙な間合いを感じさせる平四方皿に百合根、青菜、こんにゃく、にんじんで色目をつけて胡麻で和えいだ一品を出して正客から順に取次いでもらう。「これがまた、酒に合うのだ」、と鋭吼氏。三客の無頼庵氏が「乾山ですか、線が柔らかく上手すぎず写実的でないのが乾山の身上。こういうのが懐石にピタリとくるんですねエ」と一言。
そろそろ席中も一杯入って、和やんできたことだし、重厚な雰囲気から開放されてもいい時間だ、料理がど〜の、器がこーのと、数寄者同士が交歓、たまには議論白熱する場面もあるが、こういうひとときは傍らにいても水屋へ引き下がって遠くから自然に聞こえてきても愉しく、心地よいものだなといつも想う次第。
で、正客に酒を注ごうと鉄かんなべを振ってみるとなかは空だ。よし、待ってましたとばかり、いよいよ拙僧ご自慢の徳利とぐい呑みの出番だ。水屋に引き下がり、今度は2合5尺入る雨漏り堅手徳利と、紫檀の丸通い盆に黄瀬戸六角、奥高麗風唐津、中国明馬上青磁、刷毛目、高麗青磁の五つの石杯を引っ提げて持ち出すと、席上からオーッと歓喜の声が渦巻いたものだ。
数寄ものの眼が鋭く注がれる一瞬だ。紫檀盆を覗き込み乍ら見入ってたのも束の間、素早く酒盛鋭吼氏は唐津、次客財持有閑は黄瀬戸六角、三客有難屋無頼庵氏は刷毛目、そして馬上杯、高麗青磁と続く。なるほどネ、好みというものはひとそれぞれではある。ウン。
そして、拙僧が順次、堅手徳利で注いでいく、また正客から「トロリとして、いい徳利ですなア〜、預け徳利には最高だ、で、さあ、御主人、返杯っといきましょうひゃ、ささッ、もういいでしょうオ〜」、っと言い出すと、先程からグイグイ呑み始めた三客の無頼庵氏も気持ちがよくなってきたみたいでヤンヤ々と鋭吼氏の援護射撃をするもんだから、誘惑に負けそうに・・・、だが、こう言った「いやー、呑みたいですねー、酔ったほうが後々の濃茶点前も随分こなれてくるかもしれませんが、いま呑んでしまったら、たぶん大きく過ぎて点て終わらずグルグル回って抹茶堂々巡りって禅語にあったかどうかはわかりませんが、たぶん固まってしまうと存じますんで、もうちょっと我慢をば・・・」と二回目の避難を結構愉しそうに?躍起。っと、四客の呑込壱発庵氏が助け舟を、「ウン、御亭主、やはり、美味しく点てた茶を喫っしたいとくればここはやはり最後の千鳥水鳥とかいう酒を呑む儀式まで我慢されてたほうが・・」流石、拙僧の顧問弁護士だけのことはある、っと感心したものだ。でも水鳥でも儀式でもないんだなア〜、まあいいや。フーッ、よかったア、と安心してられない、既に、堅手徳利の中身は二回目、御客同士でそれで一献させろとか、ここがいいとか言い乍ら杯を交換し合うという盛り上がり。
そして今度は飯に換えてもち米を使いズワイガニの剥き身と生姜を材料に蟹蒸御飯を竹皮で包み取合せてみた。懐石としてはイレギュラーであるが本日の退出時間が16時ということを考えると時間を惜しむ都合上飯碗は出さず変化をつけてみた。そしてこの蟹蒸御飯を江戸中期の萩手鉢に盛る。続けて漬物をいれた唐津沓茶碗を正客の前に出す。と、彼は感嘆して「なんで、こんなとこで唐津の名品がでてくるのですか、吉兆の湯木貞一さんが大事にしていた湯木美術館にあるもんと競いますな、いや〜、やりますね〜、こりゃ!」うん、嬉しいこと言ってくれるじゃないの、っと内心ほくそ笑んだものだ。徳利の中身を〆張り鶴に入れ替えて、またまた一献!
ぐい呑みは既に交換されているのも数寄ものならではの光景。正客が次客の黄瀬戸六角杯で呑んでおり見込みを覗き込んだり、ひっくり返して高台を飽きずに凝視している。そして独り言のように「黄瀬戸の油揚手ってのはこれなんだなあ、この焦げもたまらないなあ」しかし、この御仁、恐ろしく詳しい。敵に回してはいけないし、ボンクラな道具は絶対だせないな、と、身を引き締めたものだ。
そろそろ懐石のやまは越えつつあり、箸洗いを出し、ここで水屋も小休止、拙僧も早く食事したいし、ということで、襖を閉めながら、「暫く御歓談を」とかなんとかいって引き下がろうとするのだが正客他皆さんが「御亭主、御膳持ち出して、今宵は我々と大いに語ろうぞ」と、後ろ髪を目一杯、引っ張られる御言葉に心を鬼にして、キッと抜けてやっと開放されたぞ、ヒ〜。
水屋では全員、大急ぎで食事をし、懐石後半の準備と、懐石が終わったあとに休憩する待合、寄付きのチェックをしなければならないし、正に戦場で、食事なんぞしている暇なないのが実情。それでも苔寺山水専務と三名は平泉三石の特性にぎり飯二つと汁を素早く片付けて次の行動にかかっていく姿は見ていて機敏で頗る気持ちがいい。彼らならこれからも安心して任せられるな、と確信したものだ。勿論、平泉氏の鋭い機転も光っている。
二十分経過、頃を見計らって襖を開けると、約束通り右手前に当初の膳にのっていたもの以外が綺麗に並べてある、後詰の有難屋御大福氏の御配慮だ。場慣れてこその御振舞い、御夫婦で仲良く数寄者三昧とは理想的だなと感じいったものだ。
さて、順に片付けていき、そして改めて鉄かんなべを、右手には八寸を持ち出す。杉の木も新しい木地上に、山の幸は焼き銀杏を三つを松葉で結び、海の幸はイカの黄金焼の上にキャビアをのせてみた。キャビアをつけるというのが意気だ。
ここからは所謂、千鳥というやつの始まりだ。まずは一献して山の幸から順に召し上がってもらい引き続き今度は海の幸を。この間、酒を主客交互に呑み交わす行為が千鳥に似てるいうことだが、こういうものはやはり風情があって愉しいものだ。が、時間がないときは一献づつでもOKで臨機応変が大事。こたびは時間がなく一献づつということで臨むことに。やっと、客の期待に応えて亭主として酒にあやかることができ、実に嬉しいひとときであるし、無事、懐石が滞りなく終わったなアッと、感慨ひとしおというところ、ップヒー、オ〜ッ五臓六腑に染み渡るとはこのことだア〜!そして返杯、受杯を五回繰り返して一回り、あー、美味かったア、それもそのはず、銘柄は久保田の万寿だ。
席も正客の酒盛鋭吼をはじめ皆さん御機嫌、よかった、よかった。まだまだ、歓談したいし、当然、酒未練はあるものの、ここは頃合、阿吽の呼吸、襖閉め間際にこれまた定石通りに濃茶用の饅頭を召し上がって貰って待合でしばし休憩を願い出なければならず、引き下がって、おずおずと真塗りの二段縁高を正客の面前に置き、取次を願いでて、茶道口に下がって、一言挨拶「懐石も無事終わらせていただき、皆様からお褒めの言葉もいただき恐縮至極であります、甘いもを召し上がりましたうえは、どうぞ待合でごゆるりと御寛ぎください。それでは!」っと言って襖をピタリ。
終わった、終わったア、水屋を見回すと、全員ホっとした表情をしている。そして「どうもありがとうございました、おかげさまで、無事、懐石が終わり、皆さんは気持ちよく待合に向かってくれたことでしょう。これからが本番、宜しく御願いしますね」って言ったら苔寺専務がニタリと笑って「御亭主、これからが勝負ですヨ、少し顔がピンク色ですゼ、濃茶点前、大丈夫ですかア〜ッ、ヘヘッ」っと斜め下から覗き込んでくる。ギクッ、こりゃ、やられたア〜、しかし負けじと「ハハッ、大丈夫っすヨ、イメトレってやつをマンボだのタンゴだのヘチマだのと痛告されながらも全うしたし、第一、拙僧はホンバンには頗る強いからね〜、フッフッフ」っと切り返したものだ。
そうして少し暗めの水屋棚に準備された茫洋とした捉えどころのない濃茶用熊川茶碗とその上にのせられた遠州作の美しくも侘びた茶杓を見つめながら、そうはいっても期待と不安が交錯する拙僧であった。そう、いよいよクライマックスなのだ!
つづく・・・・・。
では一句。
      「数寄に酔い碧空に舞う我が身かな」  阿、阿、阿ッ 一笑
いかがでしたか、今後、当職の聖職である行政書士としてのキラリ日記を挟み乍ら思うが侭につづっていきたいとおもいますので楽しみにしていてください。

石山政義 法務・行政事務所
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茶室(http://www13.ocn.ne.jp/~chakou/sub1.html
笠間日動美術館http://www.nichido-garo.co.jp/museum/exhibition_archive_0705.html
北大路魯山人http://www.tougei.museum.ibk.ed.jp/tenranan/taro/index.html
茶の湯 遠州流http://www.enshuryu.com/enshuryu.htm
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