鎌倉碧雲山房は雲襄亭主 石山政義の数寄ものがたりと時空遊泳18


当山は於鎌倉碧雲山房 早朝、門を入った右側傾斜に咲く朝顔。去年は咲き乱れ、頗る華やかであったが今年は一花開いては散るというあはれなものだった。山房内の環境は変わっていないはずなのだが、いきものにはすべてリズムがあるとするならば今年はそういうもんなんだろうと神妙に受容したものであった
さて、鎌倉は骨董屋「蝙蝠堂(コウモリ)」の続き、その2をば。
屋内はウナギみたいに細長く、相変わらず陶磁器だの、漆器、仏像だのと一貫性のないダラダラとしたもンが両サイドと正面のウインドウ陳列棚に置いており、今日のところ、というよりはいつものことながら拙僧が眼を引くものは皆無だ。
右奥には、主人のやや小さめの頭部分の左が見え隠れする、これもいつもの光景なのだが、今日はその頭がふたつある。
そう、あの頭は親子。なにやら話し込んでおり、ときたま、「クック!」と笑いとも頷きともつかない乾いた音が店内に響く。
ウーン、帝王学の伝授にしては不真面目だしなア、まあ、ここらで声でも掛けてみようということでいつもの遠慮のかたまりことばでこういった「すいまっせ〜ん、ちょうっと観せてもらっていーすかア〜、すいませえ〜ん」というと、なにやらの囁きはピタっと止み、ピョコっとでてきたのはどんぐり頭の青白い息子さんだ。
拙僧の姿をみて、アッと驚いて「あ〜ッ、これは石山さん、おひさしぶりです〜。いやほんとうにですウ〜」と頭をペコペコと下げてきたもんだ。息子さんの挨拶が終わらぬうちに、続いて親父さんが少しちじれ毛気味の短髪頭がヌウ〜、と現われてきた。
そして丁重に、しかし品定めするが如く久しぶりの拙僧の姿を下から上まで素早く確認しながら「これはこれは、御主人さま、御珍しいことで、まあ、とってもラフで涼しげな御格好、それに立派な御身足で流石、山登りをやってらっしゃるだけあってねエ〜、ヘッヘ。で、本日はお散歩でもされてますか、いやいや、よーこそいらっしゃいました、エ〜」
続けて、「もう石山さんたら、いつも脅かさないでくださいよオ〜、ビックリですヨ、ホント。内緒話ができないじゃないですかあー、もオ〜」ときたもんだから、ニヤリと微笑んだ拙僧は「ハッ、ハッ!、こりゃ、失礼。父祖伝来の帝王学伝授ですね、それとも、なにか、やばいことでも?」と軽く捻った挨拶すると「いやだったら、もー、そんなではないですからア、かんべんしてくださいよオ〜、人聞きが悪いじゃないですのオ〜」だってサ。
さて、いい加減で和んだところで、拙僧は鋭く切り出してこう言った「ところで蝙蝠さん、店頭の半双屏風、ありゃ、抱一だよね。少し上の部分が傷んで、淡彩部分にも少しヤケが確認できるけど、まずまずの状態です。それとなんといっても絵が活きているし、その菊を周っている風の強弱まで観て取らせる、ってのがすごいなあ」と言ったものだ。
すると、主人がニタアっと不気味に笑い、歯並びよろしからず加えてず奥歯のない口を開けながら「ケッケッ、石山様、流石!お目が高いことです。いやいや、いつもながら脱帽ですウ〜」っと、続けて一歩前に乗り込んできて真面目な顔で「買ってくださいヨ、鎌倉から出たものなんです、その家がまた広くて、実はそこの茶人数寄者の未亡人であった御母堂が亡くなりましたの。その亡くなられる直前に少し整理させていただいたうちの一つなんですの、石山様の邸宅にひとつどうでしょう。ねエ〜、ウエッヘッヘ!」と振ってきた。
拙僧はそれには応えずに「ヘエー、ってことはその屋敷の旦那さんのもんだったんだろうね、ほかになんかあったんですか、茶道具とか掛け軸とかは」と、逆に振ってみると彼は真剣に「いや、それがですね、これをいただいたときはまだ元気だったんですよ、そのときに茶を御馳走になり乍ら何点か見せてもらいまして、たしか一入と宗入の楽茶碗、それと御公家さんで烏丸光廣の書とか大徳寺ものが何本か・・・あッ、そうだ、ととや茶碗、あれは良かったなあ・・」
(なんだってエ、高麗茶碗のさびものの一、二を競う、ととや茶碗だとオ〜!)こりゃ相当な茶人御夫妻だったことがわかるなア、う〜ん、い〜ねえ。っと内心、ほくそ笑んだものだ。
喋り続けたらやめない彼は庭の灯篭が江戸時代だ、庭石がいいとか三畳台目の炉壇に天然小豆石を使ってただのと、あれやこれやと喋るのを聞いているうちにその屋敷と古美術、茶道具のレベルの高さが凡そが判るってもんだ。
こうなると古美術病が完治していない(実は全治死ぬまで)拙僧としては、さらに突っ込んでこう聞いた「で、それらはどうなったんですか、まだ御遺族が持ってるんですかねエ〜」と他人事のようにやんわりと言うと、彼は黒く日焼けした細い腕を組みながら「う〜ん、それがですネ、亡くなったことを聞いて、初七日が終わって、そろそろ失礼ない頃かなとおもって行ってみたらですね、石山さん、なんと中央の美術商がゴッソリ持ってっちゃったとかで、もう殆どなかったですの」
ガクッ、と言いたかったがそこは紳士に「うーん、そーですかア、やられましたね。しょーがねーやなア〜、彼らは、ったくサ」と軽く流したものだ。
傍らの息子さんは、というと目をパチクリして親父さんと拙僧の問答を顔に眉間を寄せながら小難しそうにフン、ムウ〜、とか分かったのか分からないのか・・・兎に角、聞いているようだ。
親父はさらに喋る「よく、あることですがね、中央の連中って、石山さん御存知ですよね、京橋とか日本橋、四谷あたりの・・・彼らの情報はすごいみたいですねエ、私どもは地元なのに・・しがない人生でねエ〜」としんみり。
ったく、禿げ鷹だな、かれらは、と想っても、せんなきことだ。
にしてもととや茶碗かあ〜、拙僧も一碗持っているが、この目の前にある酒井抱一の淡彩画の傑作を蔵していた程の眼力の持ち主からすると、かなりの茶碗だった筈だったのになあ・・・残念!
拙僧は気を取り直して話を半双屏風に切替えてこう言った「まあいいや、でと、あの抱一、動きがあって、まさに画中に詩あり、詩中に画あり、ってところですよね。間違いのないものだし、スッと感情の移入ができるなあ」
すると親父が「アラ、そうですか。私どもにはよいものということは感覚でわかってるつもりですが、その感情がリユーとかユニューとかは難しくて知らないのですヨ、でも、いいものでしょ。」
そして詰めるように寄ってきて「ねえ〜、買ってくださいまし、久しぶりですし、助けてください、ねエ〜」と媚びてくるんで一歩下がって、拙僧は抱一をもう一度観て、落ち着いてこういった「いったいおいくらですか。ただ上部に染みがあるし、全体的に焼けが薄くあるかんなア〜、ねエ〜、ハハッ」っと欠点を突く。
息子はただ「ア〜、かア〜」とか言って抱一の絵を凝視しているだけだ。
間をおいて親父曰く「へっへえエ〜、その、もう石山さんにはかなわないですウ〜、じゃあどうですかア、○○○円では?ほとんど利は乗っていないんですヨ、ホントですからネッ、ハイ」っとは言ってるものの、親父が目は宙に浮いているのがわかってるから、こちとら、そうは問屋が卸さないのだ。
なぜか余裕のある拙僧は「フッフッフ、ありがたいことですが、蝙蝠さん、御存知のとおり、屏風というのは一双揃ってナンボってもんすよね、それに抱一に限らず琳派の絵は、構図と図柄は勿論ですが、岩絵具を駆使した作品か、所謂、たらし込み技法を随所に採用したものが特に人気が高いというのも御存知でしょう、もう少しなんとかなりませんかねエ」とたたみかけたものだ。
かれは、う〜んとかヒ〜、とか言い乍ら、奥に引っ込んでいったが、どうせ閻魔帳とにらめっこしてウダウダと算段しているに違いないのだ。
横の息子さんは腕組みをして借りてきた猫みたいにおとなしい。が、ただ一言「かっこいい絵ですよねえ、なんか石山さんみたいな方が蔵してくださると、とても似合いそうですよねエ〜」と。
なるほど「カッコイイ・・・」か。面白い表現だ、息子さんは感性がありそうだな。とすると、この店もある程度は安泰ってことか。三代、四代続けるってのは本当に難しいからなあ、審美眼とか感性は、学んでできることではないからよけいにそうだ。
さて、2,3分経ったのだろうか、奥の柱からデロリと顔をだしてきて、こう言ってきた「石山さん、いいですよもう!私が買ったのが○△○円です、これ、本当ですからね、これに○△円だけ乗っけてくださりゃ結構ですヨ、これ以上は勘弁して下さいね、お爺ちゃんに怒られちゃうんですヨ、知ってますよね、うちの祖父」
拙僧は「知ってますとも、あの厳しくてヌラリとした戦い方、拙僧も尊敬しておりますから、はい。」
そうだ、一頃まえになるが高麗青磁の平皿の真贋論争とそれの購入に向けた、やんわりだったが激しい心理作戦を繰りひろげた記憶が生々しい。
続けて拙僧は思い切り良く「よし、買った!○○△円!ありがとうございます、大事にさせていただきますヨ蝙蝠屋さん、いいモン買わせて貰いましたよ、いやいや」と真剣に御礼口上を。
そして、最後にこういったものだ「蝙蝠さん、息子さん、センスいいですネ、大いに磨きをかけてあげてください。これも楽しみだなあ、ねエ〜、ハッハハ!」と持ち上げて一件落着だ。
そして、二人に見送られ、拙僧は揚々、うなぎ部屋の狭い店を後にしたのであった。
しかし乍ら帰り道々は、またぞろいつもの買ってしまったあとの想いが去来するのだ。そう、もっと働かねばな、美を獲るということは必ず犠牲が伴うのだ、これは決まった方程式なのだ、ア〜、自責の念がア〜、ウ〜と想いながらも、かたや抱一を前に一杯呑むぞオ〜、乾杯だア〜!と想いも飛び交う。
まったくもって、不思議な世界ではあるが、当然の帰結であり、解析しないだけのはなしでもあるのサ。
まあまあ、いいではないか、ということで鎌倉小町通り一の鳥居を潜って、本日も心身ともに時空遊泳を試みる拙僧であった。

いかがでしたか、今後、当職の聖職である行政書士としてのキラリ日記を挟み乍ら思うが侭につづっていきたいとおもいますので楽しみにしていてください。

では、また。

石山政義 法務・行政事務所

所長 石山政義 

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