数寄者石山政義の時空遊泳その101  平成28年の正月初抜き その1

(写真は剪定された山茶花に囲まれた雲襄亭の蹲)
さてと、本題に入る前に大晦日の出来事をひとつ・・・・・
この日は当山、茶室雲襄亭では恒例の行事、一年の感謝と、向う新年への期待を籠めた除夜の鐘撞き
そりゃアー、朝から庭師兼大工さんに、ここ2年ほどお手伝いしてくれる当碧水舎居合弟子で、とても器用でマメなKさん、そしてズボラな拙僧というベストメンバー
それぞれ仕事開始時間に差はあるものの効率的で無駄のない動き
酒も呑めるわ、鐘も撞けるわってこともあって心ウキウキ、愉しさ百倍
山門から道場、そして茶室へと続く200段以上の階段に散り積もった1年間の枯れ葉を集めては谷側へと収める作業は並大抵ではない
山内の樹木伐採を含めた掃討作戦はいつもながら見事な連携プレーだった
日が西に傾く頃にはおおよそ終わり、蹲周りも綺麗なもんで準備万端
そして夜の宴会と除夜の鐘撞きを前に、ほくそ笑みつつ再会を誓って三々五々、山を下りていく・・・・・
全てを整えた当山は日もとっぷりと暮れ、シンとして物音一つしない
山頂から門へと連なる石段に添え付けたいくつもの足元電燈が真っ暗になった山を蛇行しながら等間隔に陰に陽に光る様は、なかなか悦なものだ
で、皆が下山したあとの拙僧は、といえばこれから始まろうとする宴会、ってゆーか儀式の準備に余念がない
4畳半の雲襄亭茶室内に電気絨毯、コタツを据え付け、母屋から持ってきた愛玩の徳利にぐい飲み四つ
床にはいつもの幕末の大和絵画家、渡辺 清の「日本誕生の図」を掛ける
それと八寸の呉州赤絵鉢に御供え餅を乗っけて、古銅花入れには山内にあった寒椿を投げ込んで完璧だ、な
フッフッフ!
戌の四つ時を過ぎた頃、山頂階段辺りから軽快に階段を踏みしめてくる音がする・・・
きたな・・・・
ひとり、ふたり、と、手には酒に酒肴を提げ襖を開けて何故かお互いニヤニヤしながらの挨拶
一年の感謝を述べて早速乾杯
ビール、酒、ワインと酒量も重なり、茶室内も宴たけなわ
縁側の障子を開ければ暗闇の彼方には鎌倉の街並みが美しい
時計を見遣れば亥の刻の10時過ぎ・・・・・
っと、突然、K氏が騒ぎ出した
「イッヒッヒ〜、センセー、そろそろ除夜の鐘を撞かせてください」
!?、冗談でもそんなこったには乗らない常識拙僧
「ア〜ハハア!まだ亥の四つ時ですゼ、旦那ア〜」っと軽く江戸前で返したもんだ
酒をひと干して氏曰く「あっしには時間がね〜んでがんス、カミさんが子の刻までには帰ってくるよーにと」
拙僧曰く「そんなことした矢先にゃア、正月からお天とう様に笑われちまうのがオチだぜイ」
こちとらも高麗青磁のぐい飲みひと干し続けて「しかもだなア〜、こんな時間に鐘の爆音ふかしたぶんにゃア、鎌倉中の物笑いは必定!」っと、キッパリ
云われたK氏、ガッカリした様子で角刈りの胡麻塩頭を掻きながら、思いに耽る様子で只管呑み続ける・・・・・・
それから30分も経ったろうか、残ったワイン、ビンごとラッパ呑み、身を乗り出して再発言
「もーいいンじゃないですかイ、ちょっとくらいいーじゃね〜ですかイ、早く鐘を撞かせてくだせエ〜、御願えーですよウ〜!」っと、持ち前の情も利かして迫ってくる
どこまでも冷静沈着な拙僧、大山純米醸酒を開封し、黄瀬戸酒杯に注ぎながら曰く「いけませんヨ、ダアーめエ〜、あと1時間の我慢ですゾ」と再否定して酒を勧める
そのうち、幽霊よろしくふらりと立ち上がったK氏、障子を開けて縁側に座り込んで下野に浮かぶ鎌倉市街を漫然とみている風
そしてゆっくりこっちを振り返り「ちょっと厠へ・・・・・」と縁側を這いずって闇のなかへ消えていった
10分程経ったろうか。もしや、と気付いた時にはもう遅かった
厠は既にもぬけの殻・・・・・
遥か下のほうで石段を下っていく音が師走の闇夜に響く
う〜ん、果たして逃げられたか・・・・・
云いたい放題の我が侭三昧とはこのことだ
1月3日の道場開きと初抜きでとっちめて・・・・てな野暮なことは云うまいて
にしても植栽は上手いし、掃除も手際いい・・・・・
不思議な輩ではある・・・・・
続く