鎌倉碧雲山房は雲襄亭主 石山政義の数寄ものがたりにキラリ15

ここのところ、ここ鎌倉は小雨が降ったり止んだり。百足だの蚊だのと、およそ山で生活する限り、やっかいな輩が出没するのは当たり前であるし、当の昔に簡単に受容してしまった。
本日も前回の骨董屋巡りの続きとうことで

於鎌倉碧雲山房 あちらこちらに群生する、毒痛み(どくだみ)の花 名前とは反比例 3ミリから5ミリの清潔で真っ白な四弁の十字花がきっちりと咲く
さて、鎌倉は小町通りにある骨董屋「枯渇堂」に猫の如くスルリと進入した拙僧はザックリと店内を観回り、適当に品定めをし終えた。と踏んだとみたか、店主がタイミングよく、時代をおもわせる淡い濃紺な暖簾から声を掛けてきた。
三枚に分かれてる暖簾の三枚目を右手平でハラっと返し、(江戸前とはいかないが)顔をやや斜めにして、ヌルリと顔を出してきた人物は、長髪、浅黒、中肉中背、そして歳の頃35歳程ってところか。ふ〜ん、若いなあ、こりゃ息子さんだな、と思いながら目礼したものだ。
拙僧はボソリと「ども、ちょっと、観させてくださア〜い」と御辞儀しながらヤンワリと一言、さらに3分程、黙ってショーケースを観回す。かたや彼は、黙視。今度は拙僧が品定めをされているのは明白。
そう、拙僧の態度と歩き方を見ながら、大小40点はあるであろう物のうち、どの美術品で歩足を止めるか、そのときの目線と身体の動きはどうか、などと細やかに観察し、その力量を推し量っているのだ。フフ、居合いを嗜む拙僧がわからいでか、といっても詮なきことだが。
だいたい一回りしたか、とみた彼は愛想のない感じでこう言ってきた「どうですか、なにかありましたか?だいぶお目が高いようですね、うちはそんなによいものはおいてないので、もう、はい・・・」続けて「お客さんが止まって観られていた、その李朝の平皿、箱は、どうってことはないのですが、平茶碗に使えますかねエ、ちょっと苦しいですかア・・・」へ〜、結構、奥ゆかしいじゃン。
で、拙僧は彼に背を向けたまま「ちょっと、手に取らせてもらっていーですか」っと明治時代ぐらいの歪みのあるガラス戸の留め棒をはずしてもらい、ガラ、ガクン、っと開け、手に取ってみると、李朝中期、間違いのないものだ。値段によっては買ってもいいかなあ、でも、湯浅家伝来の同類の茶碗、拙僧の御蔵にあるしなア〜、いや、まてよ、平向付けとして夏に使ったら、これで二枚揃うから寄せ向付けにいいな、とか理由を付け、あたまグルグル回し乍ら次第に拙僧が食指は動いていく・・・が、ない袖は振れないかなあ・・・・ウ〜っ、煩悩がアー、拙僧を苦しめるウ〜・・・
そして振り切るように、次なる北大路魯山人織部釉薬四方皿を手に取る。彼独特の絶妙な四方の曲げ、中心には奔放に木の葉の鋭い線彫り、そのうえから織部釉薬を惜しげもなくタップリと掛け、高台にはこれまたハッキリと魯山人の「ロ」の字が・・・現状、一枚だけしかないが五枚あったら大変な金額だな、でも一枚ではなあ、などどこれに関しては自分をうまく説得させ、苦行の域には達しなった次第。
後ろで注視しているであろう枯渇堂は拙僧の葛藤は承知の筈で、(ホッホッ、おまえはせいぜい苦界にドップリ浸かるのだ、)っとばかりに苦界脱却を図るところの出口で鋭いジャブを放つ「いま、手に取られてる、そう、っその水滴は旦那さん、目利きのようなんで、もう御存知のとおり李朝後期ですが、そのダワリとした肌触り、いいでしょ?それと白のえもいわれぬボ〜っとした白霧に包まれた釉薬はア、たまらんですなア、ハハ」っと。
ヤな骨董屋だ、ったく、いいとこ突いてくるな、が、ンなことはわかっとるわい!っと癪に障ったものの、言われてみると、つい同調麗句してしまう「ですよね、これがいいんだよなア、薄〜いベージュの帯が重なって、微妙な世界だねえ」と身も心もフニャフニャになっていくのだ・・欲しい、が、袖が振れない、しかし金額を聞いてから諦めようと、こう尋ねたものだ「いいねエ、落ち着いて。小さいながら存在感があるし、こういうのは座右に置きたいなあ」続けて「ここの水滴の角は少し直しがあるんですかね、あと口の部分が少し欠けているみたいで・・・まあ、影響はないですかア〜、ダハハッ」と今度は逆に拙僧から軽いジャブを叩いてみた。
彼はニッタア〜と笑い、そんなジャブなんぞ屁でもないっとばかりに拙僧から李朝水滴を預かり「確かに、ですね。まあ、こんなものですよ、完品だったら、鎌倉、まして、この枯渇堂にはこなかったでしょう、だいいち、ドっ高いでしょねエ〜、アッカッカッ」と高笑いをする。このオ〜、若いのに、すっ辛いヤツだ、煮ても食えねエ〜、とはこのことだぜ。
しかし、彼のペースに巻き込まれてはいけない、で、今度は作戦を変えて拙僧がこう言い放った「ですよねえ、う〜ん、でもいいよなあ〜、これ、貴方が仕入れたのですか・・、そうですか、センスいいですねエ、李朝の何たるかを熟知してないと買えないですね、まだお若いのに、こりゃ、楽しみだ」と。鑑識眼と感性をくすぐってみる。
続けて「いままでいくつも白磁の水滴を観てますが、いやあ、こういうのはなかなか出会えなかった。大事にしたいものですね、こういう品性豊かなものは、心も豊かになるよなア」といったものだ。
エーとか、ハア〜とか頷いていた枯渇堂の若旦那はまんざらでもなさそうな顔。よし、ってなことで拙僧はわざと遠慮しがちに、内心はここぞとばかりに値段を尋ねた「あのオ〜、この水滴はお幾らするものなんでしょうかねエ、買えないかな、ハハッ」
すると彼は、惚けた感じで「え?値段ですか、札に書いてなかったですかア〜、この水滴は私も気に入って買ったんでネエ、ちょっと待ってくださいネ、帳面調べますんでネ、ヘヘ」だってサ、このオ〜、気に入ってんならここに置くなア〜と、言いたいところだが、ここはいつもの喧嘩嫌いの冷静沈着な拙僧なこととてサラリとこう返した「成る程、閻魔帳ってやつですね、怖いですねエ。待ってますからどうぞオ〜、朗報を期待してますヨ」といって平静を装って見送ったのだった。
暖簾の奥は暗く、裏窓が開いているのか、ときどき風が吹いて使い古した暖簾をゆらす。
ガサゴソと音がして、すぐ物音が絶え、5分ほど経ったろうか、暖簾をダラリ、っとかきわけ、ニンマリした顔がヒョイっとでてきたときは、これはイケるかな、っと期待したものだ。
ゆっくりと拙僧は「どうでしたか、買えないかなあ、うん」と、質問とも独り言ともつかない言葉をひ弱に呟いた。
彼はニッ、っと笑って「はあ、いやネ、一応、○○○円と付いていますがネ、結構競ってね、高く買ってるんですヨ、なんで、この金額で御願いできれば、勿論、消費税はサービスさせていただきます、ヘヘ」
ゲコッ、ばっかやろう、いい値つけるなア、ってことは臆面にも出さす「はあ〜、そうですか、なかなかの逸品ですから、それくらいしますよねエ〜」と気落ちして応えたもののまだ諦めがつかないのがこの世界なのだ。
1、2分シラケた感じで沈黙が続く。たまさか客の出入りでお互い休憩。水滴に関してはその後、あえて話題には出さず、魯山人だの、某茶人の茶杓だのと、近現代のものへと話をわざと切替へ、時間を稼ぎながら、頭の中なかでは、先程来の李朝水滴がグルグル回っており、汝を如何にせん、っと方策を練る。
枯渇堂に入って既に35分は経過している。なんとなく居づらくなったことだし、そろそろ勝負だな、よし、3万円の値引懇願、駄目なら2万円値引きを・・・これもボツならもう諦めよう、こっちにもなんだかわからないがプライドがあるのだぞ、そうなったら二度と枯渇堂にくるもんか、覚悟しろ、っと、こころに決め、物欲しさは臆面にも出さず、どこまでも冷静に、穏やかにこう言ったのだった「いや、だいぶん遊ばせていただきました、これで失礼しますが、いいものを観させていただきました、で、さきほどの水滴、やはりいいですね、是非、手元に置きたいのですが、あの水滴、やっぱ、いいですよねエ〜、どうですか、○○○円になりませんか、ダメなら○○○円でも結構ですが、アッハハッ」と振ってみた。
彼はもう一度、奥に入って、ガタゴソリという音をさせてすぐ出てきて、明るい顔で「仕方がないですねエ〜、負けました、いいですよ、だいぶ御好きなようですしね、私も、冥利に尽きるってことでございます。では、なかをとって○○○円でいきましょうか、特別ですよ、も〜、これ以上は御勘弁を!」といいながら水滴を摩る。
よし、作戦勝ちだな、拙僧は満面に笑みを浮かべ「いっやあ、ありがたヤ、ありがとうございます、では買いましょう、申し訳ないですねえ、せいぜい大事にさせていただます、ホッホ」と肩を撫で下ろしながら満足感が全身を突き通す。
そうか、じゃ、先の李朝堅手平茶碗はこの際、清水寺から飛び降りたつもりで諦めよう、ということに。貧乏人のつらいところだ。
しかし、安心してはいけない、これからお金の工面との戦いが始まるのだ。そう、「買ったア」と歓声をあげた瞬間、大変な重荷を背負うのだ、骨董でもなんでもコレクションするということはもの凄いことなのだ。
ひとの一生は重い荷物を背負うが如きとは徳川家康の言葉だったかどうかは忘れたが、誠に以って言い得て妙である・・・・ちと、飛躍したかなあ。
それにしても骨董数寄冥利に尽きる、と、この李朝白磁の水滴を眺めてるとつくづく想う。
しかし、ものの受容と対象への感情移入は同一同時であるによって、この図がひとつにならないと、こと美術品に関しては徹底的な拒否反応が起こるのはたぶん拙僧だけではないと考えるのだが・・・
でと、買ってしまったこの器。観ずるごとにほのぼのとした白とも乳白色ともつかぬ、複雑な色彩を放ち、色という概念があてはまらないような感覚になるから不思議だ、って、こればかりは体験してみないとわからない。
さてもさても、今宵も茶室にこもり、スタンド照らして、やがて観えてくるであろう、この水滴の茫々たる真美の世界に時空遊泳を試みんとする拙僧ではあった。

いかがでしたか、今後、当職の聖職である行政書士としてのキラリ日記を挟み乍ら思うが侭につづっていきたいとおもいますので楽しみにしていてください。

では、また。

石山政義 法務・行政事務所

所長 石山政義 

Te l03-3317-3388 fax 03-3317-1419

Emil: ima@oak.dti.ne.jp

URL http://www.ishiyama-office.com

人材募集http://www.ishiyama-office.com

日本認証サービス(http://www.jcsinc.co.jp/

公証人さん(http://www.koshonin.gr.jp/

法務省ホームページ(http://shinsei.moj.go.jp/

山水河原者(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%AD%E5%B8%AB

茶室(http://www13.ocn.ne.jp/~chakou/sub1.html

茶の湯 遠州流http://www.enshuryu.com/enshuryu.htm

茶の湯 裏千家http://www.urasenke.or.jp/index2.html

茶の湯 表千家http://www.omotesenke.jp/

根津美術館http://www.nezu-muse.or.jp/

鎌倉円覚寺http://www.engakuji.or.jp/index.shtml

笠間日動美術館http://www.nichido-garo.co.jp/museum/exhibition_archive_0705.html

京都武徳殿(http://raku.city.kyoto.jp/m/sports/sisetu0035.html

鎌倉鶴岡八幡宮http://www.hachimangu.or.jp

鳩サブレの鎌倉豊島屋(http://www.hato.co.jp/index.html