数寄者石山政義の時空遊泳  その82 差し歯組合せの理不尽

ここ1年ほど集中的に歯医者に通っており、いよいよ治療もクライマックスなのだ
左犬歯から奥へ4番、5番と2本虫歯の削りも終了、ブリッジ形式で嵌めるみたいなのだが、なんだか難しい問題が出た・・・・・
って、お金のはなしもあるが、その理不尽さに・・・・・
人工歯ってやつ、白い歯には通常、陶器と特殊プラスチックがあるらしく当然乍ら前者が高級で1本8万円、金属銀で1万円、しかも保険は一切効かない
しかし、一度ハめちまえば磨耗はもちろん滅多に割れることもなく、しかも棺桶に入るまで真っ白
対して後者は保険対象内で1本3千円の金属銀は2千円程度と、ドえらく安い
ところがこの歯、年数の経過とともに変色するし、噛み方だの扱いかた如何によっては一部割れる可能性もあり、棺桶入るときには濃茶色になってるらしい
で、拙僧が通ってる歯科は阿佐ヶ谷にあり、もう5年の付き合いだ
この日も朝からガ〜ギイー、キュンギャン、ウイーン、バリバリッとやられてウンザリ
毎度の意識朦朧状態のなかで長椅子がゆっくり戻され、情けないようなチョロチョ水が紙カップに注がれる
いつもの傳でガラガラッ、ゴロオ〜のフニャニャニャア〜っと、舌べら出してフウーっと一息ついてグッタリ
力尽きた頃合を見極めたか、お目目パッチリの先生、手を揉み揉みしながら寄ってくるではないか
曰く「ハ〜イ、イシヤマさアん、長かったけどよく我慢されましたねエ、良かったですウ〜、でネ、これから入れる歯の説明しますからよ〜く聞いてくださいヨ」と前置きして前段の歯のおはなしときたもんサ
意識がまともになったところでヨダレだらけの前掛けで口元拭きつつ拙僧曰く「う〜ん、やっぱプラは1年後?には黄色くなっちまうかア、僕もまだ若いし、なんツっても見栄えも大事だかンなア〜、デヘ」っと応えるがセンセーは無言
続けて「そーだ、センセー、犬歯の横は奮発で陶器にしてエ〜、その横はプラでその奥は銀、ってのはどうでやんス」っとこりゃア我ながら名案だよナ、っと振ってみた
するとセンセー、目を細めて「フッフ、イシヤマさん、その提案ごもっともなんですがネ、そのオ、なんツーか、いわゆる両者混合ってやつ、これって出来ないンですよオ〜、ケッケ」っと平然というではないか
「ゲッ!なんデでですか、そんなばかなことがッ」っと、おもわず直立、横で突っ立ってる、かけラーメンの大盛りみたいなスタッフ姉ちゃんと目が合ってしまった
それじゃ、ってもんで他の組合せをあれこれ言っても全然ダメで、全く選択の余地がないってのはあまりの理不尽
こな、くそオ〜、っとジタバタしても始まらないンでキッパリ諦めた
曰く「わかりヤした、じゃ、センセー、次回のときまでに決めておきやすンで」ってことで受付の一見さわやか風の中年お姉ちゃんに次回の予約ついでに、止せばいいのに上手くもないウインクして帰ったもんだ
しかし、世の中、ごまんと歯患者がいるが、そーいえば笑うと矢鱈と黄色い歯のひとがいるが、そーいうことかア、なんて変に納得
さて、その間は拙僧も矢鱈と忙しくそのことはトンと忘れちまって臨んだその当日
いつものまな板の鯉になって横にされた拙僧に相変わらずの発光ライト攻撃が眩しい
突然、メガネの奥にある目ん玉とび出そーなセンセーがデッカいマスクして真上から迫ってくる
「オはよーございます、どーですか歯の調子はイヒッヒッ」
一呼吸おいて「で、決まりましたか?まあどちらでもイーですがね お金がないなら健康保険でいきましょうや、ま、取り敢えず仮歯を外しましょうか」っとガチャガチャと道具を並べる
早速、トンカチとドライバみたいなので「ちょっと響きますからネ、ア〜ンして」、っと言いながらガンゴン、ガリガリさせながら口ン中やりたい放題
背後でヨダレ除去管持ってた例の分厚い化粧大盛りラ〜メン姉ちゃんが子供でも諭すように「ハアイ、一度オクチクチュクチュしましょうネ」っと起こされ、いやに生ぬるい水に舌鼓を打つ
が、そのうがいも終らないうちにセンセー、拙僧のカルテと支離滅裂な歯のレントゲン写真に横目に「ど〜ですか、保険歯はそんなこんなと言うけどサア〜、ま、安いしネ、イシヤマさんも毎日、時間もないことですからこいつでいきましょうヨ」っと勝手に決め付けて椅子が倒されていく
拙僧としても、まあいっかア〜、生きてもあと25年、仕事だって15年出来るかどーかだもんナ、っと心に思いながらあっさり納得したものだった、が・・・・・・・・・
センセー曰く「さあ、最後の仕上げだぞオ〜、オ〜シ、イシヤマさん、ちょっと響きますからねエ〜、それエ〜いくぞ!」ってなもんで機械もって相変わらずのガリゴリ、ウイ〜ン、ギュル、ガル〜っと拙僧が口をかき回しだしたものだ
もはや自分の歯への貞操感なんぞどこへやら、もうどうーにでしてくれってやつ(むかしは歯だけは、とおもったものだが・・・)
しかし、周りの騒がしい雑音とは別にこの日ばかりは拙僧のアタマ、頗るクリア〜
で、考えた (まてよ、残り人生30年のなかで仕事が15年かなア、多少、金かかってもここは一つ奮発、ってゆーかア〜、自分に投資しようゼ)っと決めたら即実行、くちン中は綿とヨダレ除去管でろくに喋れないけどカマいやしない
機械がストップしたところで「ヘンヘ〜イ!アっパ、ホゲンでア〜くウ〜、タファイヤッチウ〜、ト〜オウ〜キイ〜でイクウ〜、オオー!」っと身体バタバタの目の前のライト、天井目掛けて思いっきり喋ったらセンセー、ビックリして工事中断
マスク外し、目ん玉ひん剥いてこう言ってきた「ゲゲゲノゲエ〜!イシヤマさん、なんでさっきそー言わないンですかイ?」
「保険のヤツとそれが効かない陶器とは土台造りがまったく違うンですよモオ〜、冗談やめて下さいヨ〜」っときたもンだ
しかし、それってこっちがゲゲゲだよナ、なんで基礎工事が違うって言ってくんないんだヨってことだゼ
っと、思ってもブツコラ言わないのが拙僧の取り得
で、センセー、気を取り直したようで中断した工事を再開しながら「じゃ、やーり直しですウ〜、また仮歯を戻しますからネ、折角あと一回で終るつもりでしたが、元の木阿弥でサネ、土台工事はもう一回やり直しですヨ、技工士にはまだ言ってないからイイけどさア〜、もう変えないで下さいよねエ〜。兎に角、今日はこれで終わりのペンペン」だって
いやア、にしても歯を抜くだの入れるだのってのは本当に難しいねエ〜、っと今更ながら思った次第