数寄者石山政義の時空遊泳その103 平成28年居合初抜き その3

(床はどこまでも碧い空をバックに純白の雪と黄金色の霊雲も鮮やかな不二山)
ところで母屋の三畳台目で寝食している拙僧、北に台目床、東南側と西側に二つの客付窓と小さな点前座窓が一つ、それと躙り口(にじり)という質素な草庵
その密室草庵では山内中の音のほぼ全てを把握できるのだ
草木の靡く音から、鳥獣、は虫類、果てはゴキブリ、ゲジゲジのカサカサと乾いた響き・・・は兎も角
あの、おぞましいまでのムカデの身震いするような複雑で湿気のある歩行音(拙僧の天敵)までと。
う〜ん、そーいえば大ムカデとの第三次大戦のときは凄かった・・・確か16センチはあった・・・・・・
延々1時間、彼は気配消しの術、隠れ身の術、分身の術、と、忍者さながらのあらゆる術を駆使した頭脳明晰なムカデだった・・・・・
モノ凄いとおもったのは茶道具箱の濃い茶色の真田紐にピタリと、しかも真っ直ぐに密着していたのには驚愕した
これでは絶対にわからない。自分の肌色が分かっていなければ出来ない術
本能なンだろうが、いしても実に恐ろしいヤツ
が、死闘の末に完璧なまでに駆逐した
しかし、敵ながらあっぱれであったア!
いつか話そうかなア・・・・
しかし良くも悪しくも全て受容するしかない・・・・・・
は、兎も角、早速初抜きの続きをば
さて、国際色豊かな取材陣のなか、それぞれの武者連は納得のいった演武だったのか、とてもイイ気分
時計を見遣れば11時10分だ
余韻も程々、皆さん、サッサと刃物仕舞い込んで道場をあとにする
隊列も整然に山頂の雲襄亭を目指して園児の遠足宜しく対岸に見える鎌倉街と山並みに目を細めつつ苔生した石段をニタニタし乍ら標高を稼いでいく
かたや、演武出番終って、挨拶もそこそこ、ダア〜、っと階段駆け上がった拙僧、宴会と茶の湯準備に余念がない
いつも懇願してる水屋方の女史とは演武前の10時前、道場前ですれ違い、既に以心伝心であるが故の目礼でご挨拶
両手に料理ものとおぼしき荷物を抱え、黙々と山頂目掛けて慎重に石段を上がっていく
う〜ん、その後ろ姿には後光が射して確かな腕前をひしひしと感じたものだった・・・・
が、このときばかりはなんとなく一抹の不安が過ぎった・・・・・・・
茶室席内を見遣れば水屋方女史による炉中の巧妙な炭相によって釜からは松林の音と共に上がってくる湯気が適当に暖まって心地もよい
本床には碧空をバックに黄金の吉祥雲に包まれた真っ白な凛々しい富士山の絵を掛けてみた
はじめての試みだが、なかなかに粋なもの
もう一度茶庭に出て蹲周り、飛び石へと水を打ち、これですべて万端整ったゼッ、ヒッヒッヒイ〜っときたもんだ
水屋に引っ込んで水屋方を労いながら一服してると下から男女の声が喧しく近づいてくる
茶室縁側辺りで皆の衆、鎌倉八幡宮、妙本寺、本覚寺相模湾が垣間見えて、しばし感嘆能わず
頃を見計らった拙僧、茶室から襖を開けて鐘楼の鐘撞きを勧めたものだ
曰く「もう新年ですんで、お一人一回で御願しますヨ、絶対二回はご勘弁を」と云って水屋へ下がる
そー云われるとそうはいかないのが人情
女性陣は兎も角、武者輩、ここぞとばかりの子供に帰った掟破り。
まあ、いつものことながら、いいオトナの自制心の喪失は想定内
さて、鐘の余韻も覚めやらぬうちに皆さん、ウヒウヒしながら縁側から茶室内へと消えてゆく
室内では総勢12名が四畳半に所狭しとひしめき合ってキャッキャと騒いでいるのは、この狭い部屋でこれから始まる饗宴に気が弾んでいるのだ
早速、亭主に変身の拙僧、頃を見計らい茶道口を開けて御挨拶
曰く「本日の初抜き、親分の方々におきましては、いやいや見事な心技体でござンした。また奥様を含めた取材陣の御方もお疲れさまでした」
っといつものとおりの簡潔言葉
それでは、ってなもんで用意した膳を相変わらずせっかちに次々と手渡していく
配された向付けには黒豆に紅白かまぼこ、そして夫婦鶴も鮮やか蒔絵朱杯、といういつもの構え
拙僧お気に入りの高麗青磁徳利に、皆さんからいただいた名手をタップリ入れて一献、二献と注いでいくと俄然、席も賑やいでくる
さ〜て、第二段はうちの弟子の奥さん手作りの二重箱のおせちを茶室ド真ん中にドカンと置く
皆さん、オ〜!とかヒュ〜ッ!とか云いながらアッという間に片付けられてしまう
ヨシヨシ、では次なる料理をとモミ手で水屋方の後光女史に目で合図
すると、女史はなぜか俯き加減で、もう雑煮の準備をしているではないか
エッ!?
拙僧曰く「ちょっと、早いンじゃネ?」続けて「まだまだこれからだヨ、去年みたく焼物とかの料理があるでしょ」
と振る
すると女史曰く「もうないンです、去年は皆さんが持ち寄って沢山余ったので今年はそうならないようにと省略しちゃったのヨ」だってサ
開いた口が塞がらないってのはこのことだ
しかし、ない物はないのだからもー仕方ないこと
でッ、キッパリとこう云ったものだ「じゃ、もー雑煮でいこー、ところで餅はアンだろうね」と振るとこれまたマズイことに
後光女史画の振った打ち出の小槌からガラゴロと出てきた餅の数がどうみても足りないのだ
ゲッ!
続く・・・・・