数寄モノ語り その197  江戸前の鮟鱇鍋老舗 いせ源

師走

12月には必ず暖簾を潜る店がある

東京は神田須田町にある、いせ源だ

鮟鱇白身唐揚げ 酒器は堅手杯と黄瀬戸平杯

淡路町から6分

相変わらずの佇びた店構えは江戸期の旅籠旅館をおもわせる

もう25年通っただろうか・・・

たしか、茶道具専門老舗店の専務の紹介ではじまったと記憶している

暖簾を潜るといわゆる下足番が迎えてくれるが

ちょっとこわい感じは相変わらず

靴を預けて古い木札番号28を貰うと

「28番のかたア~、御着きイー、お二階で~いス」というおおきな声が

一、二階へ響いていくのを聞き入ってるうちに

あ~、これから美味しい鮟鱇が食べられる喜びが

身体全体にこみ上げてくる

二階へ通されて席に着席する間もなく間髪入れずいつもどおりの肴

「おねえさん、あん肝、にこごり、から揚げ、あとから鮟鱇鍋、それから熱燗1本ネ」

仲居さんからすればいきなりの注文についていけず

あとずさりするのもいつものとおり

そして重たいかばんからおもむろに酒器を二つ取り出す

一つは古色蒼然とした李朝初期堅手

力強くゆったりしたろくろ目は抑揚が効いており

観るものに、そして触れるごとに人生の哀愁と

わび・寂びを感じとることができる

そして一方の酒器は桃山時代の黄瀬戸平杯

だわだわとした黄青いゆず肌は桃山黄瀬戸の基調だ

そして見込みから高台裏まで抜けた緑濃タンパンも鮮やかな逸品

たしか昨年持ち込んだ酒器は高麗青磁と古唐津杯、だった

さて、準備万端、今宵もまた鮟鱇をつつきながら一年を顧みつつ

新しい年に思いを馳せ、美味しい酒をのむことができる