数寄者石山政義の時空遊泳その117 京都 夕ざりの茶事

拙僧の住処、三畳台目の茶室からは朝な夕なに蝉の鳴き声がとても喧しい
自然の巡り会わせとは言うものの、春夏秋冬、日本の四季ほどはっきりしたところはほかにないのではないか
生を享けて以来、日に日にそのことの大事さを想う今日この頃

そう想いつつ、此処に取り出したる酒盃ひとつ
青磁の発色はまさに翡色(ひしょく)そのもの
12世紀高麗青磁の典型だ
口辺は薄くシャープで胴から裾周りまでの曲線も優雅
勿論、高台には硅石(けいせき)の鋭い目跡が三つ
北宗時代の汝官窯を凌駕するこの一品
真夏のいっとき、こいつで冷酒呑んだ暁にはそりゃア、別世界でネ
いつまでも酒盃と語り合ってサ
ついつい深酒になってしまうわけ・・・・・
さてと、久し振りに茶の湯のハナシをいってみたいとおもいます
8月は京都の祇園祭りの真っ只中、ではありますがその東の野辺でのこと
そんな祭りなんぞは全く関係ないという静寂そのものの世界
京都ってところの懐の深さを垣間見たところでもある
此処の御夫妻、というか息子さんも含めて大変な数寄モノ
茶の湯も然ることながら煎茶、古美術、絵画、新内節と留まるところを知らない
この日の趣向は祇園祭の只中での茶の湯ならではの耽溺の世界に浸ろうと
ときは午後4時30分の客は4人、僭越ながら正客が拙僧!
鎌倉から京都は遠いが茶事の為ならどこまでも、がモットーでして
奥方の迎え付けから始まった此の度の茶事、以下に簡単なコメントを入れた道具組み合わせをば
待合 祇園の絵 奥方戯画 大和絵作家に習っただけあって本格的だ
寄付 小堀権十郎揮毫 茶室庵号 篆書体も迫力がある

懐石
向付 鯛昆布〆古染付 刻んでるから食感に違和感あるも食べやすい、が昆布〆具合が難しい
汁  茄子  真塗り 味付けも京都らしい
煮物 鱧汁  真塗り 骨切りは難しい、案の定、上顎に引っかかったぞイ ウッ、アガガア〜!?
焼物 白身  古備前 ホクホクで美味かった(種類は聞き忘れたな)
強肴 くちこ 刷毛目 焼くんでなく少し調味したものをそのままだ、たっぷりあって嬉しい
香物 時モノ 乾山  山水を描いてるが乾山らしく大胆
饅頭 時モノ    

本席
花入 藤の実に夏花 釣り船 砂張  禅僧の靴を象ったもの
軸  戊辰切れ   蝉を詠った部分が肝要で本日のテーマとか
香合 古染付    そのとおり、蝉だ
釜  芦屋     霰紋で鬼面怖くしっかりしてるぞ
水差 南蛮平    重々しくもなく、しかし位は高い
茶入 古瀬戸 ひとまわり小さいが夏には丁度いい、なだれも滝を想像させるねえ
茶杓 宗旦  枯淡で、節下にはゴマが・・・・・これは作者を当てたネ
茶碗 蕎麦  二段の轆轤、姿、どこまでも穏やかで色も涼しく、にくいねエ

薄茶 
軸  滝の図 池大雅 煎茶の羨望の的 サラリとしたところがさらに涼しさを誘う
花入 夏のもの 籠  白、ピンク、青と華やかもんダ
釜  筒型 作家ものだとか 
水差 古染付芋頭 典型的なモン、染付けコバルトと白地とのコントラストが鮮やか
茶碗 彫三島   おとなしく、綺麗さびの真骨頂
   乾山    この近くに棲んたらしく亭主の計らいに感謝
   御所丸   3人程度の濃茶に相応しく勿体無いのを使うところに器量の大きさが
茶杓 庸軒    作者を当てられなかった、切り止め垂直で節も意外と素直、石州流かなと
         水屋の道具方にせびったが亭主のモノだから絶対ダメだとサ
棗  蒔絵    時代
以上
で、このあとの余興で亭主が自慢の徳利と酒盃を持ち出した
拙僧も負けじと冒頭の高麗青磁を懐から取り出だしてのヤンヤの喝采
いやはな数寄の世界は愉しく、茶苑での宴ははまさに時空を越えて
いつまでも彷徨うのであった