数寄モノ語り その177 2月の波音

例年2月初頭の茶事案内は、なんとなく欠席

しかし、師走に数寄者御夫婦と約束した神楽坂の懐石料理は実行と相成った

これには少しく事情があったのだった

この懐石屋、その名も「一文字」

勿論、店も張ってるが、所謂、出張専門の懐石料理屋

しかし、茶会とかの大寄せのそれではなく、3人、5人茶事での完全水屋詰め

向付から始まり、まずは酒と酒器で一献

続いて汁、飯、焼き物、煮物、強肴、八寸

果ては濃茶へと続く饅頭の出し入れまでと

料理の吟味から濃茶へと誘う、その気配りは相当な腕前と経験が必要

その全てを兼ね備えてるのが「懐石・一文字」

去年までは飯田橋近くの御不動さん近くにあった

確か、かっての林屋晴三氏が店の企画から配置までを指導したとか

しかし、令和4年1月11日に神楽坂駅近くへ移転

その新規開店日を予約したからには絶対行かねばならぬ

場所は個人住宅の一階を数寄屋風に改造、客室は1室

したがって、懐石料理も一席という贅沢なものだ

さてと、席入りした床の間には古銅花入れに寒椿

軸は松花堂昭乗画の梅花に江月宗玩の賛

懐石は鮃の混布じめから始まった

煮物椀は海老と銀杏の真薯、焼物は若狭ぐじ(甘鯛)、これは絶品だった

料理が出るたびに綺麗な給仕姉さんが一々説明していくのだが

料理への舌鼓とほろ酔いで三人は殆ど聞いていない

で、この日に拙僧が用意した酒器は・・・・

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高麗青磁(13C) 陰刻象嵌花紋平杯

高麗時代13世紀全盛期、高麗青磁特有の陰刻象嵌平椀だ

その青磁色は胴に鎬を二十、口辺にも二十の輪花を切り取った造形と相まって

高麗青磁独特の甘い香りと艶やかさを伴って妖しげな美しを醸し出す

まさにこの時代ならではの落ち着いた華やかさと品性の高さがうかがえる一品

さても、古美術に理解ある三人が、愛でつつ語り合う

神楽坂の料理屋は、まさに時空を超え

いつ帰るともわからぬ遠い宇宙へと旅立っていったのだった