数寄者石山政義の時空遊泳その90 平成26年度某老舗初釜茶事

(写真は当雲襄亭路地の蹲。小鳥、栗鼠、偶に鳶が喉潤しにくる時は結構見応えがある)
今年も恒例の寂び道具屋では日本の五本指に、いや三本指といってもよい美術商の初釜に馳せ参じてきました
お日柄もよろしく日曜ということもあり、しめしめと午前は相も変わらずの身も蓋もないゴルフ練習に余念はないものの、さすが寒いから1時間で切上げです
昼前にはルンルン気分で鎌倉を出た拙僧、車中で缶ビール、カパッと開けて肴なしのグビリ・・・・フッヒイー!昼のビールは格別だぞい
フウ〜、そーいえば1月も茶事やったばかりだったな〜、う〜ん、まてよ、良識をモットーにする立場としてはなんとなく遊び人ふうかアーってな罪意識がホロ酔い加減の身体をしだいに蔽っていく・・・・・
マズイ・・・ここはひとつ、どーせ事務所へ酔って、でなくって寄っていくことだし、ちょっと仕事をしなければいけないのではないか・・・・
とうことでしばし阿佐ヶ谷の事務所で残務整理のマネをしたものだったが・・・
しかし、どだい気持ちも半端、これも1時間で切上げ、いそいそと招かれ茶人の七つ道具準備にはいっていく
まずは扇子に袱紗と小袱紗、続いて携帯用濡茶巾に携帯楊枝、それと一応替え足袋を
最後に懐紙!?、ゲゲッこりゃ女モノじゃねーですかイ(男モノは1.5cm程大きい)
ヤバイ、机ひっくり返しても出てきたのは昔、師匠からいただいた扇子が3本だけ・・・情けない・・・・
が、今更どーこーできるわけもなくキッパリ諦めるのも立ち直りも早い拙僧、気分一掃、背広内ポケットに七つ道具を突っ込んでと
そして手土産に「うさぎや」のどら焼き20個買い込んでイザ出陣、ダア〜!
それでは拙僧の記憶に任せて簡単に道具の取り合わせを
客組  拙僧他連客6名
寄付き
大床  琳派 (大副で江戸後期らしい華やかな題材で胡粉も鮮やか)
小床  画賛 清巌宗謂筆 (清巌らしい歯切れのいい書体)

本席
濃茶
床   偈頌 万江宗程筆(書体からして晩年、紙中極めは法灯を継いだ天祐)
花入  耳付古銅 (堂々とした古銅でいながら武張ってないとこがいい)
 花  白梅 西王母椿
香合  交趾 (番付けでも上位のはず、色も鮮明)  
釜   芦屋 環付 遠山 (霰地紋は整然さに欠けるがスタイルは抜群)
水差  備前 矢筈 (渋い!石はぜ2箇所、これも景色、好きだア〜)
茶入  玉柏手 瀬戸 (定石通りの大きさ、品性高く、なだれも程よい)
仕服  二重蔓牡丹唐草紋金襴
茶杓  小堀権十郎作 共筒 (流石、スラリとした杓、筒の字は面目躍如)
茶碗  小井戸 (均整がとれて物静か、同大名茶人所有の別井戸とは対照的)

懐石  
向付  鯛昆布〆   器 乾山 (寄せ向付 二種共図柄がよく落款も鮮明)
汁   鼈      器 楽 筒茶碗 (作者らしい赤。いつ拝見、触れてもイイものだ)
煮物  鴨 冶部煮  器 蒔絵碗 (漆も時代を経て透けてきたゾ、金蒔絵が一段と映える)
焼物  マナガツオ  器 呉州赤絵 (真っ白な磁体が赤と青の絵付けに躍動感を与えるのだ)
飯   笹寿司    器 蒟醤(キンマ)
新香  鮭蕪・胡瓜  器 三島 (深い鉢で、彫りもよく、白化粧釉も厚い佳品)
箸洗  白味噌蓴菜 器 朱塗碗

薄茶
床   琳派 (桃山から江戸初期の光琳関係の工房か、垂らし込みが効いてる)
花入  青磁 (色抜けもよく、寸法もバッチリ 耳も出しゃばり過ぎずイイ)
 花  水仙
釜   天命 (馬の地紋がよく、素直な釜)
水差  仁清 (彼らしいキメ細かな土とロクロさばきに脱帽)
薄器  蒔絵 (う〜ん、失念してしまったのだ)
茶杓  常叟作 共筒 (珍しい、夭逝してるにも関わらずのこの作、只者でない)
茶碗  ノンコウ黒 (幕釉、漆黒、口辺の薄さ、在銘、約束どおりだネ)
替   祥瑞 (磁体の白さ、染付絵柄の細かさ 粋なものだヨ)
替   御本 (使いやすくて3碗目にはもってこい、ってやつ)
以上
総じて綺麗さびに終始した感があり、この伝でいくと通常は本床には上代かな(和歌)がくるところ
が、しかし本席軸にはそれほど重くない大徳寺ものの偈頌を使用しているのはそれなりの思惑があった筈
店の奥深い御蔵にはうなるほどの名道具が眠ってるなかで、それも春屋、沢庵、江月、玉室という近世では特に著名な大徳寺僧のなかにあって、知る人ぞ知るといった感がある大徳寺134世の万江宗程を使うところがにくいではないか
この偈頌、斜めに走った三行の禅語もさることながら彼の落款はもっと斜め、っというか40度に近いのも景色として面白い
にしてもこの枯れきった字がたまらンぞい
古来から伝わる七言の禅語を師と弟子が鋭く問答しているこの場面、おそらく本日のテーマであり、また心意気であることは明々白々
さても我々数寄モノ7人はこれら道具組合せを理解させていただき、これらが目の前で淡々と点前する若社長の本年に臨んでの覚悟ということをしかと受け止めさせていただいた3時間であった